依存症と向き合う<1>
日本は、世界でも有数の「賭博大国」と言われる。2030年には、カジノという新たなギャンブルが誕生する。誘致した大阪府・大阪市は依存症への懸念に対応するため、カジノ開業に先駆けて「大阪依存症対策センター(仮称)」を整備するが、全容はまだ見えていない。依存症という病気に、どう向き合うのか。当事者や支援の場を取材し、考える。
「気合でやめられると思っていた」
「自分が依存症だとは、一切思わなかった。気合でやめられると思っていた」。競馬で1000万円の借金を抱えて自己破産した愛知県在住の会社員男性(28)は、そう振り返る。

高校卒業後に就職した会社の先輩に誘われ、競馬を始めた。最初は少額を賭けていたが、ユーチューブで見つけた「必勝法」を試すと、2週間で300万円勝った。それを軍資金に、50万円単位で賭け始めた。

貯金の300万円を失い、「倍にして返そう」と消費者金融から計250万円を借りたが、1か月でなくなった。当時交際中だった妻から「新婚旅行は沖縄に行きたい」と言われて生返事をしたが、心の中で「そんな金、どこにあるんだ」とつぶやいている。
結婚前、妻に競馬で借金があることを明かし、「もうやらない」と誓ったが、1か月しか続かなかった。「今やれば取り返せるかも」という考えが頭をよぎり、再び競馬に手を出した。結婚後も自宅でトイレにこもり、妻に隠れてスマホで馬券を買った。食事中も「会社から連絡」とウソをついてスマホをいじっている。
結婚祝いの150万円に手を付け、クレジットカードも使えなくなった2年前の秋、再び妻に打ち明けた。その夜、寝室で妻がすすり泣いていた声が、今も耳から離れない。現在は病院や支援団体とつながり、ギャンブルから離れているという。「妻のためにも、もう手を出せない。もし次やれば、本当に終わり」
「ギャンブル依存症」患者は増加傾向
「賭け金が増える」「負けを取り返そうとする」「借金をする」「ウソをつく」「やめようとしてもやめられない」――。いずれもギャンブル依存症の代表的な症状だ。
勝敗が決するまでの高揚感や高額配当を得た時の多幸感は、脳内の「報酬系」という部位を刺激し、快楽物質を放出する。依存状態になると快楽に鈍感になり、より強い刺激を求め、さらにギャンブルへのめり込んでいく。
ギャンブル依存症は、世界保健機関(WHO)が精神疾患の一つに分類しており、国内では2020年度に公的医療保険の対象となった。
日本では賭博は刑法で禁止されているが、競馬や競艇など例外的に認められた公営ギャンブルだけで市場は8兆円。パチンコを含めると20兆円規模で、国の一般会計予算の6分の1に相当する金額になる。依存症の支援団体や専門医の間では、日本は世界でも指折りのギャンブル大国というのが共通の認識である。
国立病院機構久里浜医療センター(神奈川)によると、全国のギャンブル依存症の外来患者は23年度に7154人となり、5年前の3倍以上に増えた。コロナ禍を経てオンラインでのギャンブルが拡大し、患者は増加傾向にある。

ただ、それも「氷山の一角」という見方がある。同センターが24年、インターネットなどによる実態調査を基に試算した結果、ギャンブル依存症が疑われる人は、成人の1・7%と推計された。単純計算で200万人近くになる。
そんな中、政府が新たに解禁するのがカジノだ。
「IR契機に依存症を減らすぐらいの対策を」
カジノを中核とした統合型リゾート(IR)は、昨年の大阪・関西万博の会場となった大阪湾の人工島・ 夢洲(ゆめしま) (大阪市此花区)で30年秋の開業を予定する。万博後の関西経済の起爆剤として期待され、カジノだけで年間約1610万人の来場者、約4200億円の売り上げを見込む。

カジノ設置の手続きを定めたIR実施法が18年に国会で成立した際、付帯決議でギャンブル依存症対策の強化が求められた。大阪府・市が23年に認定されたIRの整備計画で明記したのが、大阪依存症対策センターである。
「大阪が依存症対策の『トップランナー』となる。IRを契機に、依存症を減らすぐらいの対策を取りたい」。吉村洋文知事は、29年度開設を目指す対策センターの青写真をそう語る。
開設に向けた準備は緒に就いたばかりだ。今年4月に準備チームが発足。今夏にも基本構想を示し、年度内に具体的な機能や組織体制を定めた基本計画を作る。
対策センターを巡っては、「カジノのアリバイ作りではないか」(府内の医療関係者)という、冷ややかな声も渦巻く。ギャンブルの裾野とともに広がる依存症に、センターはどんな役割を果たせるのか。その成否は、府・市の本気度にかかっている。
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