ここがポイント

  • 法案は自国民に5,000万バーツの預金を求め、狙いは外国人の賭け客だと財務相は説明した。
  • 取り下げたのは推した政権の内閣で、反対派の首相の就任より前の2025年7月8日だった。
  • 2025年10月31日、首相は習主席に賭博法案の停止を伝え、同じ席で中国人客の再訪を求めた。

5,000万バーツの預金がある銀行口座は、タイに1万しかない。財務相がそう認めた額を、カジノを含む総合娯楽施設の法案は、カジノで賭けるタイ国籍の人の条件にした。国民の大半が賭けられないカジノを、政府は誰のために作ろうとしたのか。2025年7月8日に取り下げられた法案は、なぜ戻ってこないのか。

客は国民ではなく外国人だった

KEY NUMBER。1万口座。5,000万バーツ(約2億3,200万円)の預金がある口座。口座の数で、人の数ではない。法案はこの額の預金を、カジノで賭けるタイ国籍の人の条件にした
図版:5,000万バーツの預金がある口座の数(ピチャイ財務相の発言、iGaming Business 2025年3月28日)。円は2026年10月23日の相場の中値4.64円で換算

入口の条件が、客が誰かを語っている。2025年3月27日に内閣が承認した案は、カジノで賭けるタイ国籍の人に、5,000バーツの入場料と、5,000万バーツ以上の預金の証明を求めた。その預金は定期預金に6か月以上続けて置く必要があった。2026年10月23日の相場の中値4.64円で換算すると、5,000万バーツは約2億3,200万円、入場料は約2万3,200円だ。

その額の預金がある口座は1万。口座の数で、人の数ではない。ピチャイ財務相は2025年1月、法案の主な狙いは外国人の賭け客を呼ぶことで、賭博の収入は二の次だとしたと、Asia Gaming Briefは伝えた。政府報道官は、少なくとも1,000億バーツの新たな投資と、年5〜10%の外国人客の増加を見込むとした。

日本の制度とは、絞り方が違う。日本人と国内に住む外国人の入場料は1回6,000円で、入場は7日間に3回、28日間に10回まで。カジノの床面積はIR施設の床面積の合計の3%以内、タイの案は総合娯楽施設全体の10%までだった。日本は回数で絞り、タイは預金の額で外す。

図1 日本は回数で絞り、タイは預金の額で選ぶ
日本タイ(2025年3月の法案)
自国民の入場料1回6,000円5,000バーツ
自国民の条件7日間に3回、28日間に10回まで5,000万バーツ以上の定期預金を6か月以上
カジノの広さIR施設の床面積の3%以内総合娯楽施設全体の10%まで
施設の数全国で上限3か所首相が率いる委員会が後から提案する

最大の客だった中国人は2025年に2位へ

外国人客の柱は中国だった。タイを訪れた中国人は2024年に673万人で、国別で最も多かった。2025年は447万人で、前年より33.55%減り、国別で2位になったと、観光・スポーツ省の最初の推計は示している。法案が外国人客を呼ぼうとした年に、最大の客が数を減らしていた。

それでも財布は大きい。2025年の中国人客の観光支出は約2,500億バーツで、前年より31.54%減ったが、国別では最も多かった。人数で2位に落ちても、払う額は首位のまま。私が重く見るのは、カジノで呼び込む客より先に、すでにいる客が細ったという順番だ。

この客をめぐって、政治家の言い分は割れた。当時野党のタイの誇り党を率いたアヌティン氏は2025年7月9日、習近平国家主席がペートンタン首相にカジノへの懸念を直接伝えていたと述べ、法案の検討そのものが中国人観光客の9割超が消えた原因だとした。ペートンタン氏は、来ない理由は治安だと反論した。省の推計の減り方は、その主張よりずっと小さい。

中国人客は数で2位に落ちても、払う額は首位

  • 447万人2025年にタイを訪れた中国人(2024年は673万人、国別で2位に)-33.55%
  • 約2,500億バーツ2025年の中国人客の観光支出(国別で最も多い)-31.54%

推した政権は法案より先に足場を失った

法案を下ろしたのは、反対派ではない。タイの誇り党は2025年6月18日、ペートンタン首相とカンボジアのフン・セン氏の電話の音声が漏れたことを理由に、連立政権を離れた。6月26日には、政府が高まる反対を受けて、審議の順番を議事日程の最後に回している。

憲法裁判所は2025年7月1日、漏れた電話をめぐる上院議員36人の申し立てを受け、7対2でペートンタン首相の職務を停止した。その翌週の7月8日、法案を推した政権の内閣が法案を取り下げた。ジュラパン財務副大臣は、理由に政治の状況と内閣改造を挙げ、適切な時期に出し直すと述べている。

世論の数字は、測り方で割れていた。政府は、オンラインの意見募集で回答した7万1,300人の80%が支持したと説明した。国立開発行政研究院(NIDA)が2025年6月に1,310人に聞いた調査では、56.72%が総合娯楽施設とカジノの両方に反対した。二つの数字は、集め方も時期も問いも違う。

  1. 2025年1月13日内閣が総合娯楽施設の法案を原則承認
  2. 2025年3月27日内閣が修正案を承認。タイ国籍の人に5,000万バーツ以上の預金を求める
  3. 2025年6月26日反対の高まりを受け、審議の順番を議事日程の最後に
  4. 2025年7月8日首相の職務停止の翌週、法案を推した内閣が自ら取り下げ
  5. 2025年9月5日カジノに反対するアヌティン氏が首相に
  6. 2025年12月12日下院を解散
  7. 2026年1月17日法案を進めたタイ貢献党がカジノの政策をやめたと報じられる
  8. 2026年2月13日タイ貢献党がアヌティン氏の政権を支えると発表
  9. 2026年3月19日下院がアヌティン氏を293票で首相に選び直す
内閣の承認から首相の再選まで。AP通信、ロイター通信、Bangkok Postなどの報道による(2026年10月26日時点)。
データを表で見る
図2 取り下げは、反対派の首相が就く前だった
時期出来事種類
2025年1月13日内閣が総合娯楽施設の法案を原則承認規制
2025年3月27日内閣が修正案を承認。タイ国籍の人に5,000万バーツ以上の預金を求める規制
2025年6月26日反対の高まりを受け、審議の順番を議事日程の最後に節目
2025年7月8日首相の職務停止の翌週、法案を推した内閣が自ら取り下げ節目
2025年9月5日カジノに反対するアヌティン氏が首相に公的機関の発表
2025年12月12日下院を解散公的機関の発表
2026年1月17日法案を進めたタイ貢献党がカジノの政策をやめたと報じられる報道
2026年2月13日タイ貢献党がアヌティン氏の政権を支えると発表公的機関の発表
2026年3月19日下院がアヌティン氏を293票で首相に選び直す公的機関の発表

扉を閉める約束と客を呼ぶ言葉は同じ席で出た

取り下げの後の2025年9月5日、アヌティン氏が下院で311票を得て首相に選ばれた。就任の時点で、法案はすでに取り下げられていた。アヌティン氏が止めたのは、法案そのものではなくその出し直しだ。その政権の施政方針は、賭博を伴う総合娯楽施設を含め、賭博事業の合法化を支持しないとした。

アヌティン首相は2025年10月31日、APECの場で習主席と会い、賭博に関わる法案の提出はすべて止めたと伝えた。同じ席で、安全を約束して中国人観光客に再び訪れるよう呼びかけている。習主席は、カジノで賭けるためだけに旅行する中国人を国内の措置で抑えると述べたと、アヌティン首相の話としてタイ政府報道官が説明した。カジノで増やす見込みの客と、呼び戻したい客のうち、政権が選んだのは後者だ。

法案を進めたタイ貢献党も降りた。Bangkok Postは2026年1月17日、党の首相候補ヨッチャナン氏が、カジノと総合娯楽施設の政策をやめると決めたことを認めたと報じた。党は総選挙で3位に落ち、アヌティン首相の連立政権に加わった。下院は2026年3月19日、アヌティン氏を293票で首相に選び直した。

日本の読者にとって

日本も自国民の入場を、入場料1回6,000円と7日間に3回までの回数で絞るが、閉ざしてはいない。タイの法案は預金5,000万バーツの条件で自国民の大半を賭けられなくし、外国人を客にしようとして止まった。

読者のみなさんへ

タイの法案のように、自国民の入場を預金の額で絞るやり方をどう考えますか?

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