ブラックジャックのゲームでは、ディーラーに2枚のカードが配られる。1枚は表向き、もう1枚は「ホールカード」と呼ばれ、裏向きのままとなる。ホールカードは、プレーヤーが手札のアクションを終えるまで伏せられた状態である。
「しかし、ホールカード・リーダーである私には、カードがめくられる前にディーラーのカードが見える」と、ジーナ・フィオーレ氏は自身の回顧録に記している。「ディーラーのホールカードが分かれば、ハウス(カジノ側)の優位性は消滅し、私に有利な状況となる」
かつてディーラーだったフィオーレ氏は、カジノのフロアが一般のプレーヤーが想像するよりもはるかに無防備であると気づき、転身を果たしている。数学的知識、度胸、そしてソーシャル・エンジニアリングを駆使してキャリアを築き、10以上の偽名を使い分け、変わり者や天才を集めたチームを編成した。裏部屋やBOLO(要注意人物リスト)ファイル、脅迫が日常茶飯事の世界を渡り歩いてきたのだ。
男性優位の業界で名声を高めたフィオーレ氏は、やがてこの分野で最も求められる論客の一人となった。ギャンブルのマスタークラスで教鞭をとり、アドバンテージ・プレイの技術に関するニュースレターを執筆しているほか、2023年のドキュメンタリー映画『Miss Brown』の題材にもなっている。
10月27日、フィオーレ氏の回顧録『Advantage Player: A Memoir of Blackjack, Backrooms and Beginnings』がギリアン・フリン・ブックスから出版される。同書はすでに、ライリー・キーオ氏(エルヴィス・プレスリーの孫娘)が主演を務めるHBOシリーズの原作として注目を集めている。
フィオーレ氏はラスベガスの自宅から、Casino.orgのビデオインタビューに応じた。
Q:アドバンテージ・プレーヤーとしてのキャリアで、どれほど稼いだのか
A:良い質問ね。私のチームやパートナーシップ全体では、推定で1500万ドル(約23億2,600万円)ほど稼いだ。私個人としては……そうね、300万ドル(約4億6,512万円)くらいかしら。
Q:アドバンテージ・プレイにおける重要なルールを3つ挙げるとすれば
A:1つ目は適応力である。状況は常に変化しているから。2つ目は、常に新たな機会を探し続けること。今あるチャンスもいずれは消滅する。これは避けられない事実よ。
3つ目は、付き合う人間を選ぶことね。情報共有は極めて重要だから。信頼でき、かつグレーゾーンや違法行為に深入りしない人々と関わる必要がある。何よりも、自分の信用が最も大切だから。
Q:カードカウンティングを覚える前にディーラーの仕事を経験しているが、ハウス側で働いた経験が後にどう役立ったのか
A:テーブルの反対側で働いたことで、カジノで起きていることのすべてがプレーヤーに向けられたものではないと学んだ。ホールカード読みやエッジ・ソーティング、カードカウンティングをしていると、ピット(監視エリア)でのやり取りや会話、あるいは彼らがテーブルを見るたびに、自分たちが監視されていると思い込みがちになる。
しかし、カジノで働いてみると、彼らがチップの補充を指示していたり、ピットの同僚とファンタジーフットボールの話をしていたりすることに気づく。すべてがプレーヤー中心ではないのだ。彼らはアドバンテージ・プレイについてほとんど教育を受けていない。だから、彼らがこちらの高度な動きをすべて把握していると考えるのは、実態とは異なる。
Q:ディーラー時代、アドバンテージ・プレーヤーだと見抜いた最初の人物は誰か。また、その時どう対処したのか
A:パームスプリングスでカードカウンティングをしている男を見つけたのが最初ね。彼はエースを数えていた。エースが出るたびに指をあごに当て、4枚数えるとテーブルの上で指を使って印をつけ、また最初から数え直していたの。
カードカウンタを見つけたことに興奮してしまってね。彼にカードを配りながら、私が「3、7……」と声に出して数えてみせた。当然、彼は怖がって、その後私のテーブルには戻ってこなかったわ。誰かに告げ口するつもりはなかったけれど、ただ「面白い」と思っただけだった。
Q:同僚がカードカウンティングのために退職したことが転身のきっかけだったそうだが、カジノ側から客としてではなく「問題児」として見られていると最初に感じた瞬間は
A:正確な瞬間は思い出せないけれど、私は別の日に戻ってくるのが得意だった。大きなリスクは取らないようにしていたの。一度トップに立って追い出され、顔写真がBOLOリストの筆頭に載ってしまうと、その後の仕事に大きな支障が出るから。
Q:1年間に何人もの偽名を使い分けていたのか。また、ピットボスとの世間話で身分を偽り通すコツは
A:アドバンテージ・プレーヤーは、自分たちを呼ぶための名前を持っている。私の場合、「ブラウン」や「ミス・ブラウン」、「MB」などね。これまで15個ほどの名前を使い分けたわ。名前がバレるまでは使い続けるけれど、一度燃えてしまったら、基本的には終わりよ。
私の主な身分はイベントプランナーだった。これならスケジュールに融通が利くから。火曜の午後にカジノにいても不自然ではないし、週末に結婚式の予定がなければ堂々とカジノへ行ける。
Q:プレイを救った、最も些細なディテールとは
A:これ一つで救われたという決定的なものはないわね。ただ、注目されていると感じた時に、あえてその場に留まって基本戦略通りにプレイし続けたことくらいかしら。「誰がそんなことをするの?」と思われるかもしれないけれど、彼らが確信を持っていないと強く信じている時は有効なの。一度確信を持たれたら、何をしても無駄だから。その時は自然に立ち去るようにしている。
Q:これまでに何回、カジノから退店を求められたのか
A:レベルによるわね。「君は強すぎるから、もうブラックジャックはプレイしないでくれ」と言われるのが一つのレベル。それで終わりというケースも多い。
Q:ベン・アフレック氏のようなレベルか
A:その通り。次に、カジノへの出入り禁止。さらに、ネバダ州などで適用される「不法侵入法」を読み上げられて法的措置をとられるケース。そして、裏部屋に連行されるケースもある。これらをすべて合わせると……神様、分からないけれど50回くらいかしら。
Q:裏部屋に連行された経験について
A:3回は記憶にあるわ。思い出せないだけで4回目があるかもしれない。
Q:マフィアの時代とは違うため、暴力は振るわれなかったのではないか
A:いいえ、暴力はあったわ。エリス・アイランド・カジノでは地面に押し倒され、その最中に911へ通報しようとしたら、「電話を切らなければ痛い目を見る」と脅された。2003年の出来事よ。手錠をきつく締められて手首に痣もできた。
2008年か2009年には、ビロクシのパレス・カジノの外で男に掴みかかられたこともある。「触らないで!」と叫んだら離してくれたけれど、今でもラスベガスで暴行を受ける人はいるわ。そういう話は耳にする。
Q:2006年、パートナーのキース・ギプソン氏と共にアトランタ空港で10万ドル(約1,550万円)近くを所持していた際、麻薬資金と疑われDEA(麻薬取締局)に押収された。最高裁まで争ったが敗訴した。この件はビジネスにどのような影響を与えたのか。
A:幸いにも全資金ではなかったため、仕事への影響はなかった。当局と対立し、訴訟を起こさないという書類への署名を拒否した結果、金を取り戻すまでに8ヶ月かかったわ。あの時は本当に腹が立った。
最高裁で負けたことも愉快ではないけれど、あれはギャンブルの問題ではなく、管轄権に関する判例だった。ただ、日常生活で弁護士から「法科大学院であなたのケースを勉強した」と言われるのは、少し不思議な気分ね。
Q:すべてのアドバンテージ・プレーヤーには後悔する夜がある。長居しすぎたか、あるいは早く帰りすぎたか。あなたの場合は
A:リオで長居しすぎたことがあるわ。本にも書いたけれど、2005年にリオでホールカード・プレイをしていたら、良いゲームだと気づいた他のプレーヤーたちが群がってきたの。彼らのせいで警戒が強まるのは分かっていたけれど、期待値(EV)を捨てたくなくてその場に留まった。結局、最後は逃げ出す羽目になったわ。文字通り、全力疾走でね。
あの件は今でも心残りよ。当時のリオにはホールカード・プレイができるゲームがたくさんあったし、引き際であることは分かっていた。他のプレーヤーにゲームを譲りたくなかったの。20年も前のことなのに、いまだに気になっている。
Q:本に含めるか迷ったが、結局明かさなかった技術や洞察はあるか
A:ええ、もちろんいくつかあるわ。今ここで明かすつもりはないけれど。今でも通用するものもあれば、そうでないものもある。ただ、手法は循環するものだから、将来また使えるかもしれない。あるいは、誰か別の人が実行したかもしれないしね。
Q:いつかテーブルに戻るつもりか、それともまだ引退していないのか
A:答えるのが難しい質問ね。レストランで誰にも邪魔されずに食事をしたいという気持ちはある。カジノに行って、何もせずにただ楽しむだけなら同意するけれど。
Q:お子さんがいるそうだが、「ママはプロのギャンブラーだ」ということが抽象的な問題ではなく、現実的な会話として必要になったのはいつか。いつ、子供に仕事を隠せないと悟ったのか
A:息子は今月で11歳になる。隠したことはないけれど、説明するのは本当に難しい。私がカジノで働いていることは知っていたし、6歳の時にカードカウンティングの練習を教えたの。
カジノに行くと、「これはスロットマシンよ。勝つ方法を知らないならプレイしてはいけない」と教えてきた。だから息子は知っているわ。私がカジノから退店を求められたことも、最高裁のことも。6歳から10歳なりの理解力で、私が何をしているのかを分かっているの。
Q:レクリエーション・ギャンブラーが、アドバンテージ・プレイについてどうしても信じようとしないことは
A:カジノを正当な手段で打ち負かせるということね。彼らは今でもカードカウンティングをイカサマだとか、違法だと思い込んでいる。私には奇妙に思えるけれど、私はギャンブラーのコミュニティの中にいるから。
Q:カジノ側がアドバンテージ・プレーヤーに対して抱いている最大の誤解は
A:私たちを過剰に警戒しすぎていることね。カードカウンタがカジノから奪う利益なんて、たかが知れている。スロットのアドバンテージ・プレーヤーの中には、一般客の後ろに陣取って迷惑をかける人もいるけれど、一般のプレーヤーが基本戦略通りにプレイするだけで、カジノはアドバンテージ・プレーヤーに負ける以上の損失を被るはずよ。
だから、50ドル(約7,800円)のベットをするアドバンテージ・プレーヤーをそこまで恐れるのは、やりすぎというものよ。
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