アルゼンチンで最も歴史あるゲーミンググループの一つであるボルトにおいて、アントニオ・タバネッリ氏が株式の92%超を掌握する見通しとなった。同グループを率いる兄妹が、所有構造の再編に踏み切ったためである。

ボルトは、アルゼンチンで極めて重要な歴史的地位を占めるゲーミング複合企業だ。アントニオ・エドゥアルド・タバネッリ氏(写真)が、妹であるロサナ・ベアトリス・マルティナ・タバネッリ氏の保有する全株式の取得に向けた手続きを開始したことで、所有権の大きな転換期を迎えている。これにより、2025年6月25日に父アントニオ・タバネッリ氏が死去した後に兄妹間で継承された、ほぼ均等な持ち分比率は解消される運びとなった。

取引の仕組み

今回の取引は、現金による任意の公開買付けと、関連会社であるB-ゲーミングの株式への交換オプションを組み合わせたものとなった。B-ゲーミングは、タバネッリ家の事業をルーツに持つ企業である。現在、アントニオ氏がボルト株の45.9%、ロサナ氏が46.4%を保有している。ロサナ氏は兄からの全株式買取り提案に応じる意向を正式に表明しており、この譲渡が完了すればアントニオ氏の保有比率は約92.3%に達する見込みだ。今回のタイミングに至った経緯について双方は明言していないが、次世代に向けたガバナンス体制の整備が目的との見方が強い。ロサナ氏には子供がおらず、アントニオ氏には2人の子供がいるという点が、ロサナ氏の決断において中心的な役割を果たしたとみられる。なお、提出書類には取締役や上級管理職による株式売却の付帯合意は存在しないと明記されており、これは経営陣の刷新ではなく、主要株主2名間での取引だ。

現金による買取りオプションでは、最大5億2390万株のボルト株を1株あたり70ドル(約1万1,200円)で買い付ける。これは過去6ヶ月の平均株価である43.775ドル(約7,000円)に対して約60%のプレミアムを上乗せした水準である。もう一方の選択肢として、株主はボルト株を固定比率でB-ゲーミング株と交換することも可能だ。投資家は「70ドル(約1万1,200円)で売却」「B-ゲーミング株と交換」「保有を継続」の3択から選ぶこととなる。今回の買付けに最低応募株数の条件は設定されていない。10営業日の受付期間を開始するには、アルゼンチン証券委員会(CNV)による正式な承認が不可欠だ。アントニオ氏は、支配権を正式に獲得した後に義務的な公開買付けを実施する方針も示している。一方で、ボルトの上場廃止や、同社を巻き込んだ大規模な合併については明確に否定した。

ボルトの事業内容

今回の所有権変更を理解するには、1933年の創業以来ボルトが築き上げてきた事業の広範さを知る必要がある。同社はもともとセキュリティ印刷業として出発し、その後、宝くじや賭けの技術、さらにはブエノスアイレス州内外のカジノや娯楽施設へと事業を拡大した。過去にはチリへの地域展開も果たしている。しかし、グループの真の経済的基盤は、施設を直接所有することよりも、ゲーミングフロアを稼働させる技術や管理システムの供給にある。ボルト独自のCASプラットフォームは、アルゼンチン、ウルグアイ、チリ、パラグアイ全域で1万台以上のゲーミング端末を管理しており、特定のカジノの集客状況に左右されない、真の地域インフラ事業を確立した。

この技術重視の姿勢が、2020年にサンタフェで立ち上げたオンラインベッティング「bplay」へとつながった。bplayはその後、スポーツベッティング、スロット、ライブカジノ、バーチャルスポーツなどを展開し、アルゼンチン国内の複数の管轄区域へ拡大している。同社は、このセグメントを今後の成長と収益性の柱として位置づけた。

B-ゲーミングが果たす役割

アントニオ氏が株式交換の手段として用いるB-ゲーミングは、かつてのボルト複合企業の分割によって誕生している。ボルトが娯楽施設運営を保持したのに対し、B-ゲーミングは、膨大な賭け取引をリアルタイムで捕捉・検証・処理するという、目立たないながらも戦略的に重要な役割を担っている。アントニオ氏が保有するB-ゲーミングの個人持分は、今回の再編における資金調達ツールとして機能しており、現金のみに頼ることなく取引を進めることを可能にした。

全体として見れば、今回の取引はボルトの事業内容を変えるものではなく、最終的な意思決定者を誰にするかという点での変化である。物理的なカジノインフラ、地域のゲーミング技術、オンラインベッティングにまたがる事業が、2022年の世代交代以来初めて、単一の意思決定者の下に統合されることとなる。州ごとのライセンス制度や、賭けに対する課税をめぐる政治的圧力の高まりに直面するアルゼンチンのゲーミング業界にとって、最も歴史があり垂直統合が進んだ企業の一つが所有構造を整理することは、市場にとって重要な意味を持つ。アントニオ氏が上場維持を明言していることも含め、今回の取引は、その財務条件と同等かそれ以上に、市場の制度的安定性をもたらすものと期待される。